旅の人が辿り着く街―50万通りの価値観―
私にはこの街の良いところがわからない。
“愛着”ではないと思う。「まぁ全く知らない場所というわけではないから」という、妥協にも似た選び方で、たまたま運良く仕事も見つかったことだし、進学でしばらく離れていたこの街へ戻ってきた。
「何が見られるの?」「美味しいごはん屋さんはどこ?」
この街は一応観光地でもあるので、学生時代の知人や仕事で出会った人たちから尋ねられることがある。
観光パンフレットやガイドブックを見れば無難な回答は得られるけれど、私は答えに迷ってしまう。
私にはわからない答えを追い求めて旅の人はこの街に辿り着く。
年間にして50万人もの旅人たちがこの街へやって来るのだという。
私が見つけられずにいる答えを、50万人もの旅人たちは見つけて旅を終えるのだろうか。
答えを追い求めて旅をする人たちが羨ましいとも思う。
旅の人たちと一緒に、冷涼な風が通り過ぎていく。
初出:note 旅する日本語エッセイ